茅原
もう一つ面白いのは、実は扁桃体自身も記憶のゲートなんです。記憶のもう一つの通り道ですね。この扁桃体を通って記憶されるものの一つに「印象」があります。たとえば、人にあった時などに感じる、この人いい人だな、というような感覚的な印象は、扁桃体を通って記憶されているんですね。楽しかった印象は憶えているんだけど内容は憶えていない、という体験を誰でも一度はしたことがある思いますが、ああいうことが起こるのは、内容的な記憶と感情的な記憶が別回路なことの一つの証拠ですよね。
wowlab
上下関係でいうと、海馬と扁桃体ではどちらが上なんですか?
茅原
2つの組織の支配関係はまだ良くわかっていないんですが、海馬が扁桃体の反応を参照しているのは確かのようです。ですから好きこそのものの上手なれ、というのはまさにその通りだと思います。
wowlab
好きだったり興味のあるものに関しては、扁桃体がどんどん反応して、海馬のゲートも開きやすくなると。ということは表現に関していうと、まずは好きになってもらったり、興味を持ってもらう表現を作らなければならないですね。そうした印象をデザインしてはじめて記憶に残してもらえるということですから。
wowlab
音に関しては認知科学的にどんなトピックスがあるのでしょうか?
茅原
音に関しても様々な研究が行われています。音の高さやリズム、大きさの知覚など音楽でおなじみの特性はもちろん、音源定位など空間的な特性も検討されています。例えば、音源が右側にあると、音は右耳の方に少しだけ早く届くために左右の耳で時間差が生じます。この時間差は本当に微妙なものなのですが、聴覚システムはこのズレを高精度に計測して、そのことで音源が右側にあることを知ったり残響成分をキャンセルしたりしています。
脳の奥の上オリーブ複合体っていう部分にある、「ディレイライン」(図1)と呼ばれる回路が時間差を計測しているんですが、人間の身体の中では一番時間精度の高い部分で、百万分の一秒のレベルで処理が行われています。蝸牛では異なる場所で異なる周波数を符号化するなど、脳は空間をうまくつかって処理をしているんですが、その大変美しい例ですね。
図1