Behind the Sense 茅原拓朗 x wowlab

視覚世界は安定していない

茅原
「原理的には解けない」ということは、コンピューターがいくら高速に大容量になっても決して解けない、ということを意味しています。つまり、難問なんじゃなくて、解が一つに決まらないということなんです。解が一つに決まらない、というのは視覚になぞらえていうと、視覚世界が安定しないということです。同じものがああ見えたりこう見えたりする。でも、私たちの視覚世界は安定していますね。先ほどのグラデーションはいくら頭で2次元のグラデーションに過ぎないということがわかっていてもかなり頑固に立体に見えてしまいます。ということは、脳ならではの独自の解法や計算方法があるはずだということになります。そのような独自の解法の一つが、先ほども触れた脳の中の「前提」です。解が一つに決まらない問題に対して、脳は前提や仮説を当てはめて、とり得る解の範囲を狭めていくということをしているということが考えられています。

wowlab
その前提というのは、人間共通のものなんですか。それとも個人個人でばらつきがあるんでしょうか。例えば経験の異なる人間では前提が異なってくるとか。

茅原
そこがとても面白いところなんですが、私たちの「見ること」のかなりの部分は共通のスペックでとらえることが出来ます。その共通性が、どの程度生得的なもので、どの程度経験によるものなのかは、まだはっきりとは分かっていませんが、でも、「見る」ために欠かせない「前提」がある程度共通なことが、私たちの間の了解可能性を支えている、とも言えると思います。

 

wowlab
ということは良いデザインというのは、そうした前提をうまく利用したものなのかもしれませんね。普遍的なアフォーダンスを感じさせるようなもの。もしくは逆に前提を逆手にとって、脳の認識を裏切るような表現のような。

茅原
それはまさに皆さんがお仕事の中で日常的に探っておられることですよね。実は、お仕事や作品を拝見して、我々がやっていることと同じだ!って、最初はびっくりしたんです。アプローチや表現が違うだけでやろうとしていることは同じだなぁと。我々は実験という分析的なやりかたでどんな前提が機能しようとしているか調べているけれど、wowlabさんは「そのように見える」グラフィックスや映像を直接つくってみることで分かろうとしている。

wowlab
そうですね、どうやったら鉄の質感を表現できるかとか、写実的な表現のためにどんなテクニックが必要かとか、数多くのトライ&エラーを繰り返して、経験的に完成を導きだしていきます。高度な表現になればなるほど、調整の時間がとても必要になってきますね。

茅原
我々のアプローチでも、刺激のバリエーションを作り出してそれぞれに対する見え方や聞こえ方をもとに調べるという点は全く同じです。こうした手法的な類似点が生まれる背景には、やはりテクノロジーの進歩があると思うんですね。作品レベルの高次元のコンピューターグラフィックスをある程度リアルタイムに、しかもパラメトリックにコントロールできるようになったことが大きいのだと思います。

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