Behind the Sense 茅原拓朗 x wowlab

脳は変化を捉える

茅原
視覚世界は豊かですよね。空間的な次元だけではなくて、色とか動き、それに意味など様々な情報で満たされている。ではこの豊かな視覚世界を我々はどのようにして捉えているか?と考えていくと、網膜像につきあたります。この豊かな視覚世界の材料になっているのは、網膜に映った小さな像です。それだけなのです。しかも人間の目は光学系としてとらえたときも、CCDのような光電装置と比較したときも、とても精度が悪いんです。

wowlab
精度が悪いんですか? てっきり、ものすごく高精度だと思っていました。

茅原
誰でも知っている身近な精度の指標として「視力」がありますが、視力検査で測定された視力どおり見えているのは、実は、視野中心のうち視野角にして直径6度程度の範囲に過ぎません。視野角6度というのは、腕を伸ばしたときのグーの大きさくらいの領域で、その縁の付近では視力は半分くらいになってしまいます。さらにすごいことに、カラーで見ているのも視野の中心部だけです。したがって、私たちが日常的に体験しているフルカラーで美しい視覚世界を構成するために目や脳が「何かしている」ことになりますが、その「何か」の一つがサッケードと呼ばれる高速の眼球運動によるスキャニングです。

wowlab
視野の中を精度の高い視野中心部で少しずつスキャンして、全体をつなぎ合わせているということですか?

茅原
そうです。ですからそもそも今見えているシーンは、同時的なものではないんです。一挙に捉えたわけではなくて、部分毎に時間差があるんですよ。

 

wowlab
そうなんですか!ということは、見えている全体像が部分ごとに、少しずつ更新されていくような感じでしょうか?

茅原
脳がつなぎ合わせて更新しているんです。しかも人間の知覚システムというのは、変化を捉えることを前提とした仕組みになっていますから、全体をまんべんなくとらえるのではなく、変化している部分だけをとらえようとするんですね。それどころか、逆に、変化のないものは「見ることができない」と言っても過言ではありません。

wowlab
という事は、例えば、動かないものよりも、動いているものに無意識に注意を払うという事ですね。

茅原
そうですね。昔、新聞の日曜版などにあった「まちがいさがし」は、基本的には変化を「動き」としてしかとらえられない我々の視覚システムを逆手にとったエンタテイメントです。「まちがいさがし」の絵をチョキチョキ切り取って2枚を重ねてパラパラマンガを見るときのように素早く交代させると、2枚の内どこが違うかすぐにわかってしまうのですが、それは、そうすることによって2枚の絵の違いが「動き」として目に届くようになるからです。
それに、そもそも私たちの目は光があるだけでは見ることができません。実は、網膜がとらえているのは、単なる明るさじゃなくて明るさの差、すなわち、コントラストなのです。フォトショップではおなじみの「エッジ検出」をするのが網膜なんですね。

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