wowlab
まずお聞きしたいのは、知覚心理学とはどのような学問なのでしょうか。
茅原
人間が見たり聞いたりする現象とそれを支えるメカニズムを研究しています。といっても、一般にはなかなか理解してもらえなくて、解剖学とか生理学とか基礎医学のようなものだと思われることが多いです。
もちろん医学的なアプローチも含まれているのですが、なにより我々自身の知覚体験という現象を対象にしている点が他の脳科学あるいは認知科学分野とは異なる点です。なので、いわゆる五感すべてが研究対象になるのですが、さらに身体を使って世界にどのように働きかけているかということも対象としていますので、全体としては、環境に対する入出力系の研究をしている、とも、さらには世界とのインタラクションの研究をしている、とも言えると思います。
wowlab
なるほど。五感全部ですか。とても範囲が広いですね。
茅原
単純に「見る」ことだけを取り上げても広大な未知の領域が広がっています。ほとんど何も分かっていないといってよいのです。でも、そんなワクワクするような世界がまさに私たちの体験の中に広がっていることがなかなか実感してもらえません。
もちろん自分の説明の拙さもあるんですけど、なんであまり知覚心理学の問題が理解してもらえないのか、僕はずっと考えてきて、今はある一つの答えを持っています。それは、私たちが「見えてしまう」からだ、ということです。
wowlab
見えてしまう・・ですか。確かに「見る」という行為を意識はしていないですね。
茅原
そうなんです。一般に健常者は、「見る」ということについて理解したり訓練したりしなくても、見えてしまいます。本当は、「見る」ということの背後には、進化の過程や、学習や成長の過程、脳の膨大な処理があって「見ること」を支えているのですが、でもそれらは全て無意識的なものなので、それに気づかない、いや、気づく事がが出来ないんです。だから「見ること」について研究しています、と言ってもピンと来てもらえないんだと思います。
wowlab
見えているから、それが当然の事だと思い込んでいるわけですね。
茅原
はい。機能しているが故の不可視性というか、空気のようなものだと思います。でも私たちの日常的な体験の中にも、注意深く観察すると、「なぜ?」と思える、面白い現象はたくさんあります。例えば、止まった電車に乗っていて、隣の電車が動いたときに、自分の電車が動いたように感じたことはありませんか?
wowlab
あります。電車でも車でもありますね。あれは不思議な感覚です。